MUSIC OF SOUTH KOREA

ポンチャックの巨星・李博士(イ・パクサ)昔は日本でも持て囃されていた陽気な人だが苦労人 誰にも真似できないこれぞ大韓オリジナルな音楽

テクノ感の入った電子オルガンによるグルーヴ音楽

大韓ミュージックの最初を飾るのはこの男だ。李博士と書いて、イ・パクサという。いまでも、(日本でも)メジャー系のカラオケには「イパクサ」で検索すると何曲かは入っている、ポンチャックの第一人者である。

K-POP全盛の今でも、土着の演歌「トロット」は地道に韓国では続いている

ポンチャックを説明する前に、まずベースとしてある「トロット」について説明したい。韓国には日本でいう演歌にほぼ同じ「トロット」という音楽ジャンルがあるが、昔は日本でも演歌がメジャーだったのでこれら韓国から来日してきたトロット歌手がそれなりの成功をおさめているが(キム・ヨンジャやチョー・ヨンピルなどが代表格)、しかしポップス全盛の世の中になってからは、体裁のいいK-POPばかりが輸出され、ほとんどトロットは日本に入ってくることはなく、せいぜいK-POP目的で韓国に上陸した女子が、タクシー運転手に大ボリュームでカセットやラジオを聞かされ、トロットの洗礼を受けるくらいのものだろう。
その韓国演歌「トロット」があるということだけを把握したら、次の段落に進んでいただきたい。

トロットと似ていながら非である謎の音楽「ポンチャック」

その「トロット」からの発展形、もっと大衆的な音楽としてポンチャックというのがある。
主にカシオトーンのような電子簡易キーボードの旋律+ポップな電子ドラム音に歌謡風・演歌風の歌詞を載せた音楽で、基本はキーボードとボーカルの2名1組。
そのチープでハイテンションな曲調で、祝い事の会場や、バス移動中などに、即席ディスコとしていい年した人たちが狂ったように踊る光景は、90年代までの韓国にはよく見られた、なんとも土着感あふれる「これぞ大韓文化」といったものなのだ。

間抜けそうに見えて、この音楽スゴイ! と思わせてしまう大衆洗脳性

バス移動時に踊るって何?と思ってしまうが、古いポンチャック動画を見るとすぐにわかるかな。かつてはバスの中で立って踊っていようが、韓国では問題がなかったのだ。
韓国は主要な場所に高速バスターミナルがいっぱいあるのだが、当時は貸し切りの長距離バスが多い=暇をつぶす必要があるという韓国独特の状況が影響していると思われる。よってそこに、ひたすらテンションを上げる音楽、ポンチャックというものがハマってしまったのだろう。Wikipediaなどには、バスの長距離運転手が眠気覚ましとして活用していたようなことが書いてあるらしい。
近年韓国では安全上の理由で以前のようにはバス移動中席を立つことはNG(立たせない法律のほかディスコ的な音楽を流せないように法が新設された)となってしまったので、90年代の一時期はメジャーであったこの文化自体は、バスではできなくなり、中高年が踊る場所に限られてしまい、かつてよりもだいぶしぼんだものとなってしまった。
李博士自体もピーク時には100億ウォンの財産があった(詳細は後述)というが、かつてはこれらの高速バス営業などが大量にあったのだと思う。カセットテープが売れたのもあるだろうが、営業がなければ巨額を稼ぎ出せる理由がわからない。
この音楽、人々の踊りっぷりと、チープなオルガン、「じょわじょわ」を始めとしたよくわからない合いの手、時折入るポップな電子ドラム音が間抜けなのでバカにしてしまいがちだが、これは結構大衆娯楽としてはスゴイものである。語りと踊りをもってハイテンションに向かわせる、河内音頭の世界にもちょっと近いものを感じる。

ポンチャックテクノか、ポンチャックディスコか

日本では、電気グルーヴの絡みで露出したことからポンチャックをテクノのカテゴリーに入れている場合もあるが、現地ではポンチャックはディスコとつながるものである。普通のおじさん、おばさんが踊るというものであった。そんなものは踊らないと言っているようなかつてのディスコ世代も結構いい年になってきたが、そろそろ彼らもポンチャックを踊るのだろうか。

K-POPは韓国人にとってのファンタジー、理想の自分だから「李博士」のことは忘れられている

ポンチャックの帝王であった李博士、本国でも彼は一部では再評価もされているのだが、日本あたりではまだ追いかけている人はいるものの、韓国ではあまり「見せたい部分」ではないことから、なかなか分かってくれる人がいないようだ。かつて、K-POPを根本敬が『韓国人が見せたい理想の姿』であるような意味合いのことを言っていたが、おおむねたしかにそんな側面はあるだろう。実際K-POPなら喜んで話してくれる人たちも嫌がっているし。そんな記事『なぜ韓国の若者に「ポンチャックの帝王 イ・パクサ」のことを聞くと露骨に困った顔をするのか』(ロケットニュース24)

日本でも何枚かCDが出ている

彼は一時期は、電気グルーヴが見出した体で日本でもアルバムが出されたこともあるし(実際に韓国から発掘してきたのは根本敬だと言われているが)、コックローチのCMも伝説だ(動画は残っているので見てほしい)
ただ、動画を見る前に予め脳に入れておいていただきたいのは、李博士、狂人ではないかと思うくらいに素っ頓狂な声が出てくるということ。決してK-POPでは示されない彼独特の合いの手等、ぞんぶんに味わっていただきたい。

▼頭に挨拶が入るが、当時のビデオが比較的高画質で紹介されているもので、わかりやすいかと。これでおおむね把握できるというもの。

▼コックローチのCM(1分くらい)

ドキュメンタリー動画が残っている。NHKなので日本語でわかりやすいと思う。最初と最後くらいしか出てこないが、ポンチャックがどういうものかはわかると思う。2002年ワールドカップの前位の動画かな。

しばらく姿を消していたが…2011年ころには復活の動きが見える

▼永く行方がわからなかったが、2011年に突如アップされた伝説の動画

▼その頃なぜか「学校の売店 お腹ペコペコ」で復活。

売れなかったのかなあ。

その後、またまた再復活

2014年には韓国のM-net「トロットX」に出演。またその2年前に出たドキュメンタリー「生きていれば」という番組では、生活苦を告白しているという。はしごから転落して治療に専念、2度の離婚、また絶頂期に稼いだ100億ウォン(10億円)も詐欺で失ない、パニック障害で7年以上引きこもっている子供と一緒に生活していたとか…。
▼動画はM-net「トロットX」100万再生を超えており、いかに話題になったかわかる。

2014年11月9日 ソウル・乙支路3街近くの店でのライブ(小規模)。2分しかないのは残念。

2015年には、売春街としても知られる清涼里の中高年用舞踏場での営業も見られている。

まだいろいあるので、今後追加していくが、いかに彼がスゴイかというのは、ひとつふたつ動画を見るだけでもわかるのではないだろうか。誰にもマネができない、その独自の音楽スタイルはかっこいいのだが、見た目かっこよくないから、日本ではなかなか男性以外には受けないが…。

中古などで手に入るCD(国内盤)

DVD

by
大韓ミュージック編集部
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